[遺言の知識と平成27年相続税改正】
〈遺言と関連する公正証書〉
  弁護士 高  橋  隆  一
第1【遺言とは」
1 遺言とは,自分の大切な財産を,遺された者に最も有効・有意義に活用してもらうために行う,遺言者の意思表示。
 遺言がない場合は,法定相続。
 遺言がないために,相続を巡り親族間で争いの起こることが少なくない。
2 法定相続
 (法定相続分) 民法第900条
@ 子(子の代襲相続人を含む。)と配偶者(1号)
 配偶者   2分の1
 子     2分の1   数人のとき各自の相続分は相等しい。
例: 子供3人 2分の1÷3=6分の1
非嫡出子の相続分は嫡出子の2分の1(900条4号ただし書)
↑ 最高裁の憲法違反判例で改正  平成25年12月5日,民法の一部を改正する法律,「嫡出でない子の相続分が嫡出子の相続分と同等」(同月11日公布・施行)。
 孫← 代襲相続分は株分け(901条1項)
例:子供3人の内1人死亡 死亡者の子2人 6分の1÷2=12分の1
A 直系尊属と配偶者(2号)
 配偶者   3分の2
 直系尊属  3分の1
B 兄弟姉妹と配偶者(3号)
 配偶者   4分の3
 兄弟姉妹  4分の1
   数人のとき各自の相続分は相等しい。
   半血兄弟姉妹の相続分は全血兄弟姉妹の2分の1(900条4号ただし書) 父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1
   甥・姪 代襲相続分は株分け(901条2項)
 
 民法は,上記のように「抽象的に相続分の割合を定めているだけ」なので,遺産の帰属を具体的に決めるためには,相続人全員で遺産分割の協議をして決める必要がある。←時間と手間・もめる?
また,法定相続に関する規定は,これを,それぞれの具体的な家族関係に当てはめると,相続人間の実質的な公平が図られないという場合も少なくない。
 
  ★そこで,遺言を遺す実益・必要性が出てくる。
 
3 遺言能力
 15歳以上で遺言能力を有する者(961条,963条)
 成年被後見人(962条,963条,873条)
  ・ 脳梗塞や脳溢血・脳出血後遺症,精神分裂病,アルツハイマー型痴呆と多    発性脳梗塞起因型痴呆
  ・  意識障害の程度 医師の診断書
4 遺言の方式

 
  自筆証書遺言(968条)           
                        







 
  普通方式     公正証書遺言(969条,969条の2)    
 (正式遺言)
 
                        
  秘密証書遺言(970条,972条)      
                                
    死亡危急者遺言(976条) 

 
  危急時遺言                   
    船舶遭難者遺言(979条) 
  特別方式                           

   (略式遺言)
    伝染病隔離者遺言(977条)
  隔絶地遺言                   
    在船者遺言(878条)   
 
5 自筆証書遺言と公正証書遺言
 自筆証書遺言
ア 利点
@ 自分1人で作ることができる。
A 作成したことや内容を秘密にできる
イ 欠点
@ 無効となるおそれがあり,二様三様に解釈されてかえって相続人間でトラブルの種になる。
A 紛失,亡失の危険がある。
B 不利と思った者によって隠匿・破棄・偽造・変造されるおそれがある。
C 家庭裁判所の「検認」の手続が必要。
ウ 判例で有効・無効が問題となった点 方式違反は×
・運筆について他人の添え手による補助を受けた。カーボン複写の方法によって記載。 全文英文。
・年月はあるが日付の記載がない。「平成27年1月吉日」。日付以外の部分を記載し署名押印した日の8日後に当日の日付を記載。「昭和48年8月27日」と記載すべきところ,「昭和28年8月27日」と誤記。
・押印がない。押印ではなく指印。自署の下に押印はないが,封筒の封じ目に押印
 公正証書遺言                          
ア 利点
@ 遺言者の真意,遺言の内容について法律的疑義を残さず,最も安全で確実。公正証書は公証人が作成。
A 原本は半永久的に厳重に保管され,紛失や改ざんのおそれがない。
B 「検認」の手続不要。
C すぐに相続登記等の手続や預貯金の払い戻し,相続税の早期申告ができる。
D 日公連の遺言検索システムで遺言の存否が確認できる。
E 秘密が守られる。……遺言者及びその代理人以外には閲覧させない。遺言をしているかどうかも知らせない。遺言者が死亡した場合,その相続人又は受遺者にのみしか閲覧又は写しを交付しない。
イ 欠点(?)
  証人2名の立会いが必要
 
 作成手数料が必要。「公証人手数料令」(平成5年政令第224号)
 
6 遺言事項
 遺言によっても生前行為によってもできる行為
ア 財産に関する事項
@ 贈与 遺贈(964条)
A 遺言による財団法人設立の寄付行為
B 持戻し免除の意思表示(903条3項)
C 遺言による信託(信託法)
イ 身分に関する事項
@ 廃除(893条)とその取消し(894条2項)
A 子の認知(781条2項)
ウ その他
@ 祭司主宰者の指定 最近は家族葬とか散骨 音楽葬
 遺言でのみできる行為
ア 財産に関する事項
@ 相続分の指定,指定の委託(902条)
A 遺産分割方法の指定 「相続させる。」←公正証書
 ,指定の委託(908条)
B 遺産分割の禁止(908条)
C 相続人相互間の担保責任の指定(914条) (912条) 各共同相続人は,他の共同相続人に対して,売主と同じく,その相続分に応じて担保の責任を負う。
イ 身分に関する事項
@ 未成年後見人の指定(839条),未成年後見監督人の指定(848条) 離婚した夫を後見人にさせない。
ウ その他
@ 遺言執行者の指定,指定の委託(1006条)
 法定の遺言事項以外のもの……「付言」,「付記事項」
ア 遺言書作成の動機,心情
イ 配分を定めた理由
ウ 相続人らに対する希望
 
 
7 遺言書作成の必要性がある場合
@ 夫婦の間に子がなく,財産が居住用の不動産のみのとき。夫婦相互で遺言
A 先妻の子と後妻の子がいるとき。
B 内縁の配偶者がいるとき。事実上離婚状態にある妻には財産をやりたくないとき。
C 世話をしてくれた息子の嫁に財産を遺したいとき。
D 相続人が誰もおらず,遺産を役立ててもらいたいとき。相続人がいない場合には,特別な事情がない限り,遺産は国庫に帰属
E 病弱な子や障害をもつ子に多くの財産を遺したいとき。
F 農地や事業資金など分割に適しない財産を後継者に継がせたいとき。
G 推定相続人の中に行方不明者や海外居住者がいるとき。
H 財産をやりたくない推定相続人がいるとき。逆に最後まで世話をしてくれる人や恩人に財産をやりたいとき。・亡夫の遺産を相続した後妻が夫の子の世話になっているが,没交渉の実子がいる場合
I 妻の手前,遺言でしか認知できないとき。
J 各相続人毎に承継させたい財産を指定したいとき,身体障害のある子に多くあげたいとか,遺言者が特に世話になっている親孝行の子に多く相続させたいとか,可愛いくてたまらない孫に遺贈したいとかのように,遺言者のそれぞれの家族関係の状況に応じて,具体的妥当性のある形で財産承継をさせたい場合。
K  愛人に財産を残したいとき ? 外国人の妻
    
8 遺言は,いつするべきものか
 
9 障害を抱えた子の将来の面倒を見ることを条件に,第三者に財産を与えるという遺言 負担付相続 負担付遺贈
 
10  ※ 信託遺言
 
11 財産を妻に相続させる遺言の場合で,妻が先に死亡した場合
   離婚した場合の効力 無効?
 
予備的遺言 同時死亡 遺言者よりも受遺者が先立たれたとき
 
12 口がきけない者や,耳が聞こえない者 (969条の2)
  公正証書遺言 口述 ←うなずくだけではダメ 
 
  手話通訳 
 
13(遺留分の帰属及びその割合)
民法1028条  兄弟姉妹以外の相続人は,遺留分として,次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
  1  直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の3分の1
  2 ※ 前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の2分の1
 
第2 相続税の改正 
 平成25年度税制改正により,相続税法及び租税特別措置法の一部が改正。
 平成27年1月1日以後に相続若しくは遺贈又は贈与により取得する財産に係る相続税又は贈与税について適用される主な改正の内容
 
1 相続税
@ 遺産に係る基礎控除額の引き下げ
   平成26年12月31日までは「5,000万円+1,000万円×法定相続人の数」ですが,   ※改正後の平成27年1月1日以後は「3,000万円+600万円×法定相続人の数
養子
   (1)  被相続人に実の子供がいる場合   1人まで
   (2)  被相続人に実の子供がいない場合  2人まで
 
A 最高税率の引上げなど税率構造の改正 6億超〜 55%
 
B 税額控除のうち,未成年者控除や障害者控除の控除額が引き上げ
C 小規模宅地等の特例について,特例の適用対象となる宅地等の面積等が変更。 240u→330u 80%
 
2 贈与税
@ 相続時精算課税について,適用対象者の範囲の拡大など適用要件の
A 暦年課税について,最高税率の引上げや税率の緩和など税率構造が変わります。
 
3 事業承継税制(相続税・贈与税)
 
 事業承継税制について,適用要件の緩和や手続の簡素化など制度の適用要件等が変わります。
 
第3 配偶者控除特例の計算
 被相続人の配偶者は,遺産分割や遺贈により実際にもらった正味の遺産額が,法定相続分以内であれば税金がかかりません。また,たとえ法定相続分を超えて相続しても,1億6,000万円までは税金がかかりません。配偶者控除額について式にすると,次のようになります。
 配偶者控除額=相続税の税額×(次のABのいずれか少ない金額÷課税価格の合計)
  A:配偶者の法定相続分(法定相続分が1億6000万円未満なら1億6000万円)
   B:配偶者の課税価格(配偶者が相続する財産分) 
 
ただし,妻に多額の財産を残すと2次相続で多額の相続税を取られる可能性
 
 
第4 尊厳死と遺言の関係,献体の遺言
 尊厳死公正証書
ア 尊厳死の宣言に関する本人の陳述を録取する事実実験公正証書
イ 尊厳死に関する代理権授与公正証書 
 献体
 「医学及び歯学の教育のための献体に関する法律」
 
第5 死因贈与契約
   仮登記
 
 
第6 任意後見
   成年後見 家庭裁判所   任意後見契約公正証書 
                               以上